「暗黒童話」乙一|眼球が見せる映像を辿った先で見たものとは?

ずっと前に購入した本。その時に何を思って手に取ったのかは忘れてしまったけれど、なんとなくで想像していた以上に記憶に残る小説だった。色んな意味で。インパクトは大。色んな意味で。

「暗黒童話」のあらすじ

突然の事故で記憶と左眼を失ってしまった女子高生の「私」。臓器移植手術で死者の眼球の提供を受けたのだが、やがてその左眼は様々な映像を脳裏に再生し始める。それは、眼が見てきた風景の「記憶」だった…。私は、その眼球の記憶に導かれて、提供者が生前に住んでいた町をめざして旅に出る。悪夢のような事件が待ちかまえていることも知らずに…。

「暗黒童話」を読んだ感想

取り出される眼球、そして内臓・・・グロい・・・・・・

この小説を読んだ印象といったら・・・とにかくグロい。想像したら「うぇぇぇえ」ってなる。

「暗黒童話」というタイトルで、紹介文には「ホラー」の文字。いくらかは「ある」かと思っていたが、まさか最初の数ページから眼球をくり抜くとは思わなかった。しかも話が進むにつれて眼球なんて可愛く思えるような、えぐい人体切断や合成、むき出しになる内臓の描写。なんてグロッキーなんだ。こういうのが少しでも苦手な人なら吐き気を催すほどだと思う。

しかしながら、グロッキーで残酷で恐ろしくて不快なのに、続きが気になって読まずにはいられないような、不思議な引力のある作品だった。

作中作「アイのメモリー」が素晴らしい

眼球をくり抜くのはこれである。作中作「アイのメモリー」は眼球を失った少女のために、鴉が他人の眼球をくり抜いてプレゼントする物語。いきなりこの物語から始まるし、作中作だと知るのは後のことなので戸惑った。本編が始まってからも、一体どういう意図があるのだろうと気にかかっていた。

次々と眼球をくり抜く描写は恐ろしいのに、次第に鴉の想いが切なく感じるようになってくる。そして暗黒童話の名に相応しいあの結末。何とも言えない物悲しさと、その先に訪れるであろう両親の絶望を想像して胸が痛い。非常に残酷でありながら、細部まで美しく飾られた物語にすっかり魅せられてしまった。これだけを抜き取って短編として考えてもいいくらい、素晴らしい作品だと思った。

張り巡らされた伏線

普通に読んでしまった。私は大体いつも見抜けずに驚かされるタイプの人間なので、今回も何も疑わずに読んでいて最後に驚かされる羽目になった。ある意味ミステリー小説に向いている。今回は一応ホラー小説だけど。内容としてはミステリー色が強い気がする。

1度目に読んで驚かされた後、気になったので続けて2度目を読んでみた。2度目ともなるとグロさにもだいぶ慣れて落ち着いて読めた。1度目には気付かなかった伏線が散りばめられている。勘の良い人なら構成や微妙な違和感で気付きそうだなぁと思った。ところどころ粗もあったけれど、伏線回収しながら読むのも面白かった。

主人公の心理描写に胸を打たれる

主人公は眼球を失った時のショックで記憶を失くす。それにより「明るくて話好きで運動神経は抜群で、勉強も出来て何でも器用にこなす」以前の彼女とは真逆の人間になってしまう。親も先生も友達もみな、人気者だった前の彼女と記憶を失くして何も出来ない今の彼女を比較する。次第に失望されていき、居場所を失っていく。

正直、記憶を失ってすぐにその反応?それをさせるの?と思ってしまったのだけど、ちょっとイイところの家や学校だと考えるなら、あり得るかもしれないと思いながら読み進めた。母と向き合おうとするほど修復が困難になっていくような描写は切なかった。主人公は何度も自分の存在について自問する。

押し潰されそうなほどの孤独の中にいた主人公が、移植した左目に映る映像を心の拠り所にし、提供者の周囲の人の温かさや事件を通して変化していく心理描写も見どころの一つかなと思う。

グロ耐性のない人には全くオススメ出来ないが、続きが気になってどんどん読めたし、なかなか読み応えのある内容だったなぁと思う。やっぱり作中作「アイのメモリー」が良い味を出していた。それと、あとがきが面白い。とてもあの残虐でグロッキーな物語を書いた人とは思えないような緩い文章に笑った。