「十二国記 月の影 影の海」小野不由美|過酷な日々を生き抜く少女の成長を描くファンタジー
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久しぶりに十二国記シリーズを読み始めている。人に紹介していたら、自分の方が不意に無性に読みたくなってしまった。以前読んでいたものは母が購入したもので実家にあるため、新しく自分で購入した。

十二国記と言えば、18年ぶりに新作「白銀の墟 玄の月」が発売されたことで一時期大騒ぎになっていた。私も読みたいとは思いつつ、読まずにここまで来てしまった。何度も読んだことがある十二国記だけど、最後に読んでから随分と立っている。せっかくなので、最初から読み返してその流れで最新作を読もうと思った。

まずは、全ての始まりとなる「月の影 影の海」から。

「十二国記 月の影 影の海」のあらすじ

「お捜し申し上げました」──女子高生の陽子の許に、ケイキと名乗る男が現れ、跪く。そして海を潜り抜け、地図にない異界へと連れ去った。男とはぐれ一人彷徨(さまよ)う陽子は、出会う者に裏切られ、異形(いぎょう)の獣には襲われる。なぜ異邦(ここ)へ来たのか、戦わねばならないのか。怒濤(どとう)のごとく押し寄せる苦難を前に、故国へ帰還を誓う少女の「生」への執着が迸(ほとばし)る。シリーズ本編となる衝撃の第一作。

「十二国記 月の影 影の海」を読んだ感想

とにかく辛い!過酷な展開で疲弊していく上巻

「月の影 影の海」は上下巻になっている。上巻はとにかく辛い展開が続く。

元の世界での陽子はいわゆる「いい子」だった。波風を立てず、常に人の顔色を気にしては誰にでもいい顔をする。誰かにとっての都合のいい子であり、誰とも心から仲良くなれない、八方美人の女の子。陽子自身はそれでいいのだと思いながら生きてきたが、異世界に来てそんな過去の自分にも苦しめられる事になる。きっと「いい子」に心当たりのある人もいるだろう。私も心当たりがある。陽子が指摘される言葉はそのまま、心当たりのある読者に容赦なく刺さる。愚かな自分と向き合わなければいけなくなる。

何も分からないまま異世界へ連れてこられて、人から追われる身となり、魔物には襲われ、信じた人にも裏切られ、体も心もボロボロになっていく陽子。全てに絶望し、人を信じることが出来なくなり、もういつ死んでもおかしくないような展開が続く。上巻はひたすらに重苦しい。初めて上巻を読み終わった時など、この主人公は一体どうなってしまうのだろうと衝撃を受けたものだった。

人によっては途中で投げ出したくなるかもしれない。だが、十二国記のファンとしては、ネズミと出会うまでは読み続けて欲しいと思う。この辛さがあるからこそ下巻が活きるのだ。

楽俊との出会いを経て成長を感じられる下巻

ネズミ・・こと楽俊との出会い。楽俊に助けられて一命を取り止めた陽子だったが、きっと裏切るに違いないという思いは消えず、頑なに心を閉ざしていた。利用できるうちは利用しよう・・・そんな陽子の気持ちに気付きながらも何食わぬ顔をして、いつも変わらぬ真っすぐな優しさで陽子と接する楽俊。

楽俊との出会いを通して、陽子が気付きを得る場面がある。その時の言葉がとても好きだ。

「裏切られてもいいんだ。裏切った相手が卑怯になるだけで、わたしの何が傷つくわけでもない。裏切って卑怯者になるよりずっといい」

引用元:「十二国記 月の影 影の海(下)」84P

人に合わせて流されるまま生きてきた陽子が、最初の頃とは別人のように変化していく。その過程が丁寧に描かれているから、誰も信じられなくなった陽子にも、強く成長していく陽子にも共感できる。

景麒、説明不足すぎるぞ・・・

そもそも景麒がちゃんと説明していれば、陽子はこんなに苦労することはなかったと思うんだ。はぐれるのは想定外だったとしても、あまりに説明不足すぎる。どこからどう見ても不審者としか思えない人に、何も説明されないまま連れていかれるのは普通に怖すぎるわw

今作ではあまり出番のない景麒だけど、後の作品でも説明不足すぎるあまりにトラブルを招いて・・・本当に口下手なやつである。しかし、回を重ねるごとにその口下手さが可愛く思えてくるし、親心的な感情が芽生えてきたりする。まあ、それはまた別の話になってしまうので置いておこう。

実際のところ、死ぬほど辛く険しい道のりを経て陽子は成長できた。最初の頃の「いい子」だったら、人の顔色を窺ってばかりだった陽子では、きっと国を滅ぼしてしまったのではないかと思う。過酷な旅があってこそ、あのたくましい陽子がいて、結果的には良かったとも言える。けれど、死と隣り合わせだった陽子の状況を考えると、やっぱり言いたくなってしまうのだ。景麒、説明不足すぎるぞ・・・!と。

世界観が難しいが、慣れてしまえば面白い

陽子も読者も初めの頃は何も分からない。陽子が旅をしながら得た断片的な情報を繋ぎ合わせて、異世界のことを学んでいくことになる。

異世界は中華風の世界観で、作中には難しい漢字や特殊な言葉が多く使われる。初めて読んだ時は「これ何だっけ?」と何度もページを行きつ戻りつしていた。なので、メモとか取っておくと読みやすいかもしれない。世界観に慣れるまでは難しく思えるけれど、しっかりと作り込まれているので、わかってしまえばとても面白い。

この作品はいわば序章であり、十二国記、そして陽子の物語はここから始まっていく。上巻はかなり辛いけど、下巻まで読み終えた頃には続きが読みたくて仕方がなくなる・・・そんな魅力に溢れた作品だと思う。

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