「アリス殺し」小林泰三|少女が見る夢と現実が繋がる不思議の国のおかしな邪悪ファンタジー
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図書館で借りてきた本の一つ。タイトルがやや過激だけれど、「不思議の国のアリス」に関するお話という事で楽しみにしていた。まずは、想像以上の作品だったと言っておく。

「アリス殺し」のあらすじ

最近、不思議の国に迷い込んだアリスという少女の夢ばかり見る栗栖川亜理。ハンプティ・ダンプティが墜落死する夢を見たある日、亜理の通う大学では玉子という綽名の研究員が屋上から転落して死亡していた―その後も夢と現実は互いを映し合うように、怪死事件が相次ぐ。そして事件を捜査する三月兎と帽子屋は、最重要容疑者にアリスを名指し・・・邪悪な夢想と驚愕のトリック!

引用元:「BOOK」データベースより

「アリス殺し」を読んだ感想

ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」

言うまでもないが、本作は「不思議の国のアリス」をテーマに描かれている。他に「鏡の国のアリス」や「スナーク狩り」のキャラクターも登場する。

私は本家であるルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」は「読んだことがあったかな?」くらいの記憶しかない。「鏡の国のアリス」や「スナーク狩り」はおそらくきちんと読んだことがないので、どういうものか分からないキャラクターもいた。ネットで調べて簡単に知識を入れれば何となく想像は出来るし、知らなくても読めるのだけど、おそらく3作品の世界観を十分に理解している方が面白さは倍増すると思う。なんだかルイス・キャロルの作品も読みたくなった。

不思議の国ならではの頭のおかしい会話

情景描写よりも会話が多い。実に「不思議の国のアリス」らしい会話が繰り広げられていく。気が狂いそうな頭のおかしい会話の数々。こういった言葉遊びが大好物な私はワクワクしながら読んでいたけれど、けっこうここでイライラさせられたり挫折しかける人も多いみたいだ。同じところをグルグルしているような停滞感は好みが分かれるかもしれない。

「アリスは毛玉みたいなやつに気を使ってるの?」
「そうね。ただの毛玉じゃないから」
「ただじゃない?じゃあ、いくらで買ったの?」
「買ってないわ。友達だから」
「友達から買ったって言った?」
「いいえ。友達から買ってないわ」
「じゃあ、非友達から買ったんだね」
「非友達からも買ってない。もしそういう言葉があったとしたらね」
「じゃあ、誰から買ったんだよ?」
「誰からも買っていないのよ」
「じゃあ、ただじゃないか」
「ただじゃないわ」

描写が丁寧でグロい

血飛沫ブッシャーはもちろん、殺害中や殺害後の状況が丁寧に描かれている。リアルな描写でその光景が容易に想像できるので、グロ耐性がないと少々厳しいかもしれない。一部知らないキャラクターもいたが、アリスの世界で馴染みあるキャラクターがこんな目に遭うのかと何とも言えない気持ちにもなった。

ただ、アリスの世界観をベースにしているからなのか、どこか遠い世界のお話のような希薄な印象もある。軽くネタバレになってしまうが、犯人に対して刑を執行する時の残虐な行為が、不思議の国の住人の頭のおかしい会話によって中和され、その滑稽さにグロくて気持ち悪いのに思わず笑ってしまう。

気付かれにくい巧みな伏線

すっかり騙されてしまった。真実が明かされる時まで気付かなかった。再読してみたが、けっこう大胆に伏線を張っている。アリスと亜理が伝えようとしていたり、なんてことのない会話の中でも重要なメッセージが記されていたりする。

全てを理解してから読み返したら「ああ~!」となった。初読で伏線に気付けたなら推理して特定できるようになっているが、伏線となる言葉は上手いこと他に意識が向くようになっていて気付きにくい。

常識が揺らぐ世界の秘密

犯人が分かってもページ数はだいぶ残っていた。この後はどうするのだろうと思っていたら予想外の結末に驚いた。ファンタジーと言ってしまえばそれまでだけど、私達が常識と思っている世界は当たり前ではないかもしれないと提示されたような気持ちだ。白兎も言っていた。

「眼鏡なんぞに頼ったら、目に見えるものしかわからなくなる」

正直、白兎はもうちょっと眼鏡を頼った方がいいと思う

終わり方には物悲しさを感じつつも童話的で面白かった。夢はいつか終わるのだ。最後に一つ疑問が残って気になったので色々と考察を読んだ結果、こういう事なのかなと納得できた。そこまで考えられているとしたら、なおさら好きだと思った。

あと、これだけは強く言いたい。私は井森くんがとても好きだなぁと思ったの。最後まで読んだ人には共感してもらえると思う、この複雑すぎる気持ちを!

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