「魔術はささやく」宮部みゆき|交わっていく3つの事件と少年の葛藤
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「魔術はささやく」のあらすじ

それぞれは社会面のありふれた記事だった。一人めはマンションの屋上から飛び降りた。二人めは地下鉄に飛び込んだ。そして三人めはタクシーの前に。何人たりとも相互の関連など想像し得べくもなく仕組まれた三つの死。さらに魔の手は四人めに伸びていた……。だが、逮捕されたタクシー運転手の甥、守は知らず知らず事件の真相に迫っていたのだった。

「魔術はささやく」の感想

高野さんかっこいい(そこ)

読む度に思うのだけど、高野さんの存在感とかっこよさ半端ないよね。惚れちゃう。

久しぶりに読んでみたらやっぱり面白いな。一見関係なさそうに見える事柄が複雑に絡み合う。いくつもの伏線が交わってラストへと繋がっていくのは、ある種の快感を覚える。

守に金庫や錠前破りの知識を与えてくれたじいちゃんの言葉が深い。

「じいちゃんが思うに、人間てやつには二種類あってな。一つは、できることでも、そうしたくないと思ったらしない人間。もう一つは、できないことでも、したいと思ったらなんとしてでもやりとげてしまう人間。どっちがよくて、どっちが悪いとは決められない。悪いのは、自分の意思でやったりやらなかったりしたことに、言い訳を見つけることだ」

じいちゃんとのお話はほっこりするね。父親のことで辛い目に合う守。人間の醜さが描かれている一方で、引き取ってくれた叔母やじいちゃん、岩本先生、あねごなど周りの人の優しさが沁みる。

犯人が使ったトリックについては賛否両論あるらしく。私はあまり気にならないんだけど、推理として考えるとまあ反則技だよね。ちなみに現代の科学では、サブリミナル効果はほとんど影響がないとされているみたいだから、現実的に考えると、間接的であれ催眠術で自殺へ持っていくのは難しいのかな。

そんなわけで、推理部分を期待して読むとガッカリする人もいると思う。ただ、この小説の肝となるのはクライマックスの後のクライマックス、守が決断を迫られる場面なのだ。全ての出来事はこのためにあったと言っても過言ではない。ジリジリとした緊張感と共に守の葛藤が伝わってくる。電話で犯人に告げた言葉まで含めて、ここの展開が本当に素晴らしいなと思う。

あと、吉武氏の告白は初めて読んだ時から鳥肌だった。彼は過ちを犯し、その罪を償うことから逃げた。日下親子を見守り続け、愛情を抱き、そして償いだと言って再び守の前に現れた。彼は償いだという。だけど、それは自分の過ちへの言い訳にしか過ぎないと私は考える。あれほどの罪を抱えながら「ずっと見守っていた」だなんて、そんなのただの自己満足だ。

なんとなく悲しみの残るラストだけど、最後に少しだけ救いがあるのが良い。知らなければ幸せでいられたこともあるけれど、知ることで救われることもあるのだと思う。

最後に強く言いたい。

高野さんかっこいい(やっぱりそこ)

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