「十二国記 風の万里 黎明の空」小野不由美|3人の少女の成長と変わりゆく慶国を描いた物語
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今作では「十二国記 月の影 影の海」の主人公・陽子が再び登場する。「月の影 影の海」は簡単に言うと王になるまでの物語だったが、今作では王になってからの苦悩が描かれていく。

また、新しく2人の少女が登場し、それぞれに苦悩しながら成長していく様子が描かれる。

国の仕組みなど難しい話も多いけど、面白くてどんどん読めてしまうし、「月の影 影の海」から陽子を見てきた人なら、その成長っぷりに感動すること間違いなしだろう。

「十二国記 風の万里 黎明の空」のあらすじ

人は、自分の悲しみのために涙する。陽子は、慶国の玉座に就きながらも役割を果たせず、女王ゆえ信頼を得られぬ己に苦悩していた。祥瓊(しょうけい)は、芳国(ほうこく)国王である父が簒奪者(さんだつしゃ)に殺され、平穏な暮らしを失くし哭(な)いていた。そして鈴は、蓬莱(ほうらい)から辿り着いた才国(さいこく)で、苦行を強いられ泣いていた。それぞれの苦難(くるしみ)を負う少女たちは、葛藤と嫉妬と羨望を抱きながらも幸福(しあわせ)を信じて歩き出すのだが──。

「十二国記 風の万里 黎明の空」を読んだ感想

異国の地に流され、虐げられる自分を哀れむ鈴

蓬莱生まれの鈴は蝕に巻き込まれ、十二国の世界へやってきた。

見知らぬ土地で言葉がわからず苦しんでいたが、梨耀と出会い、仙になれば言葉がわかるようになるのを知って梨耀の下僕となる。だが、それは新たな苦しみの始まりだった。

梨耀に酷く当たられて、自分を哀れみ、誰かが助けてくれることを夢見て、空想しながら自分を慰める日々・・・・・・。

元いた場所には二度と帰れない境遇は気の毒だなと思う一方で、鈴の子供っぽい言動や自分を哀れむ様子にはイライラするのと同時に、読んでいて気恥ずかしさを感じてソワソワしてしまう。

「あなたの方が恵まれている」「私はこんなにも辛いのに」と辛い理由を探しては不幸自慢をする鈴。何の努力もせず、不幸な自分に浸かっているのは楽だよね。そういう沼に陥りがちだよね、人間って。

「辛いことがあると偉いのか?辛いことがあって、辛抱してると偉いのか?おれなら辛くないようにするけどな」

「十二国記 風の万里 黎明の空(上)」242P

「本当に苦しかったらさ、人間ってのはそこから抜け出すために必死になるんだよ。それをする気になれないってことはさ、ねえちゃん、実は抜け出したいと思うほど苦しくなかったんだよ」

引用元:「十二国記 風の万里 黎明の空(上)」247P

清秀の言葉が刺さるぜ。努力よりも不幸の沼に浸ってしまう気持ちはちょっとわかる。だから鈴を通して自分を見ているような気がして、気恥ずかしく感じるんだろうな。

前半はとにかく子供っぽくて嫌な子なんだけど、清秀と出会ったことで成長していく様子に心を動かされる。

王である父が殺され、民に憎まれることを理解できない祥瓊

民を苦しめていた王・・・父が殺された。身分を隠して里家で暮らすことになったが、王を憎む沍姆の罠にはまって素性がバレてしまい、それ以降は冷たく当たられるようになる。

「父は間違っていない」「私は何も知らなかった」・・・なぜ父が、自分が、これほどまでに憎まれなければいけないのか。何も知ろうとせず、毎日を優雅に暮らしていた祥瓊には理解できない。

同情するところがないわけじゃないけど、些細な理由で殺される民からすれば「何も知らなかったの」「教えてもらえなかったんだもの」はまあ、ふざけんなってなるよね。

特に前半はなかなかに酷い。過去の華やかな生活を懐かしみ、全ては人のせい、なぜ憎まれるのかを考えてみることもなく、あげくに盗みを働き、理不尽な理由から景王を憎む。

きっついながら正論すぎる珠晶の言葉がとても良い。

「祥瓊はその責任に気づかなかった。その責任を果たさなかった。野良仕事は辛い、掃除は辛い、嫌だ嫌だって駄々を捏ねて逃げ出す人間を許すことはね、そういう仕事をきちんと果たしている人に対する侮辱なの。同じように朝から晩まで働いて、盗みも逃げ出しもしなかった人と同じように扱ったら、真っ当な人たちの誠意はどこへ行けばいいの?」

引用元:「十二国記 風の万里 黎明の空(上)」260P

楽俊の言葉にはハッとした。当たり前のように得ているもの、その意味について考えさせられる。

「何の努力もなしに与えられたものは、実はその値打ちぶんのことをあんたに要求してるもんだ」

引用元:「十二国記 風の万里 黎明の空(上)」341P

楽俊に罪をなすりつけようとしたのは許しがたいけど、楽俊を通して己の無知さを知った祥瓊の変化も見どころだよね。

国のことが何もわからず、決断できずに苦悩する陽子

蓬莱生まれの陽子はわからないことだらけ。決断を求められても答えることが出来ずに苦悩していた。

「私は蓬莱で人に嫌われることが怖かった。終始人の顔色を窺って、誰からも気に入られるよう、無理な綱渡りをしていたんだ。ーーいまとどう違う?愚王と呼ばれることが怖い。溜息をつかれることが怖い。諸官の、民の、景麒の顔色を窺って、誰からも頷いてもらえるよう、無理をしている」

引用元:「十二国記 風の万里 黎明の空(上)」177P

人の顔色を窺っている自分に気がついた陽子は、身分を隠して街で暮らすことにする。てか、みんな溜息つきすぎだし、特に景麒!もっとサポートしなさいよ!一緒になって溜息つくんじゃないわよ!

常識が違う世界でいきなり王様になって政治をやれって言われてもわからないよね。そんなホイホイ決断できないわ。

でも、このままではいけないと気づいて行動する陽子はかっこいいし、街に下りて慶国の現状を直に知ることで、自分は不甲斐ない王だと思い、さらなる成長を遂げていく姿に胸が熱くなる。

景麒の予王と陽子に対する想いが垣間見れる

溜息をついたり、憮然としたり、渋い顔をしたり、不満だけは顔に出ちゃう景麒w

陽子と景麒は「真面目✕真面目」だから、最初のうちは空気が悪い。息が詰まりそうな感じが伝わってくる。

景麒がもっとサポートすればいいのに・・・って思いがちだけど、過去作で一騒動起こすほど説明不足で口下手な景麒なので、まあ仕方ないのかもしれない、うむ。

景麒が予王のことをどういう風に思っていたのか、陽子と出会った時にどう思ったのか。その心の内が綴られており、予王に対しては切なさを感じつつ、陽子を真に尊重すべき王として思い改める描写にぐっと来る。

「主上におつきして、お守りせよ。決して危険のないように。ーーあの方は慶にとってかけがえのない方なのだから」

引用元:「十二国記 風の万里 黎明の空(上)」181P

あの景麒がこの言葉を言うなんて。他にも、陽子を心配する様子や、ちょっとしたやり取りの中で、景麒が陽子に対して信頼を深めている様子が描かれていて微笑ましい。

水戸黄門のような勧善懲悪の描写が気持ちいい

身分を隠して街で暮らした陽子。最後に正体を明かして一喝するシーンは鳥肌が立つほどかっこいい。陽子はどんどんかっこよくなっていくよね。惚れちゃう。

王宮に戻り、ずっと悩み続けていた初勅を告げるシーンは圧巻だし、読むたびに泣きそうになる。

「人はね、景麒」「真実、相手に感謝し、心から尊敬の念を感じたときには、自然に頭が下がるものだ」

引用元:「十二国記 風の万里 黎明の空(下)」389P

「人は誰の奴隷でもない。そんなことのために生まれるのじゃない。他者に虐げられても屈することのない心、厄災に襲われても挫けることのない心、不正があれば糺すことを恐れず、豺虎に媚びず、ーー私は慶の民にそんな不羈の民になってほしい。 己という領土を治める唯一無二の君主に」

引用元:「十二国記 風の万里 黎明の空(下)」389P

国や民のことを真摯に想う陽子。慶は良い国になるだろうなぁ。

現状を嘆くだけじゃなく行動することで人は変われるのだと。陽子、祥瓊、鈴の成長していく姿に教えられる。

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