「十二国記 丕緒の鳥」小野不由美|王の存在に左右されて苦しむ民と国のために奮闘する男たち
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「十二国記 丕緒の鳥」は、十二国の世界で暮らす人々の生き様を描いた短編集。

長編の主人公だった王や麒麟はほとんど出て来ないけれど、官や民の視点から描くことによって、十二国の世界により深みを与えている作品となっている。

「十二国記 丕緒の鳥」のあらすじ

「希望」を信じて、男は覚悟する。慶国に新王が登極した。即位の礼で行われる「大射」とは、鳥に見立てた陶製の的を射る儀式。陶工である丕緒は、国の理想を表す任の重さに苦慮していた。希望を託した「鳥」は、果たして大空に羽ばたくのだろうか―表題作ほか、己の役割を全うすべく煩悶し、一途に走る名も無き男たちの清廉なる生き様を描く全4編収録。

「十二国記 丕緒の鳥」を読んだ感想

「丕緒の鳥」

表題作「丕緒の鳥」は、大射と呼ばれる儀式に携わる丕緒という男が主人公の物語。

かつては華々しい陶鵲(陶製の鳥)を作った丕緒だったが、その熱意は失われていた。新王のため、再び作らざるを得なくなった丕緒が思い出す苦い記憶。

慶国の歴史を辿りつつ、丕緒が王に対して訴えることを諦めてしまう様子が丁寧に描かれている。

前作「十二国記 風の万里 黎明の空」にて景麒が思い出す予王は切ないが、暴君としての彼女の一面はあまりに残酷で、非道な行いによって傷つけられる側の痛みを色濃く見せつけてくる。

陽子の成長を見てきた身としては、新王への諦めがもどかしい。陽子は違うよって言いたいのに、投げやりになってしまう丕緒の気持ちもまたわかる。そんな風に描かれているので苦しい。

だから、その結末に泣きそうになった。映像が浮かぶような儚く美しい儀式の後、丕緒と共に陽子に救われた。

「落照の獄」

前作で『国が傾いている疑惑』があった柳国の物語。王も少しだけ登場し、疑惑を裏付けるような話が出てくる。

司刑・・・現実世界でいうところの「裁判長」である瑛庚が、重罪人の判決に悩む姿が描かれる。

短編4作の中でも特に難しい言葉が多く、とっつきにくい印象かな。罪人を裁く難しさ、裁く側の死刑に対する心理的な負担など、現実においても考えさせられる内容だった。

判決に対して意見を出し合うシーンで、似たような会話が繰り返されるのは中弛み感があったが、柳国の司法制度がわかると共に、日本とそれほど差異がないんだなと思った。

絶対にわかり合うことはないという絶望感。なんとも後味が悪い。ダークな物語。

「青条の蘭」

謎の病に冒された山毛欅を救わなければ大災害になる。薬を探し、王宮に届けようと奮闘する男たちの物語。

王がいなくなった国の荒れていく様子が描かれている。過去作で『国が荒れる』とはよく言われていたが、実際どのような状態になるのかをより身近に感じられる話だなと思う。

土地の名前が見慣れないものばかり。どこの国の話なのだろうと思いながら読み進めていくと驚かされる。どの国にも辛い歴史があるのだなと、そんな当たり前のことを改めて考えさせられる。

山毛欅の病はじわじわと進行していくが、楽観的に捉えている民の様子がリアル。あと、官吏が酷すぎて腹立った~!

楽観的だったり、訳が分からないのに協力してくれたり。国民性が伺えるなぁ。新王まさにピッタリじゃないかと思ってしまったわ。胸が熱くなる。希望ある感動作って感じ。

「風信」

予王の命令で女性は国外追放になった時代。家族を殺された蓮花は慶国を出ようとするが、その途中で王が斃れ、摂養という街で少し変わった人たちの下働きとなり、暮らし始める。

過去作で何度も話に出ていた「女性の国外追放」の実態。「丕緒の鳥」では官吏の視点からその悲しみが描かれているが、「風信」では民の側から描かれていて、より生々しく残酷に感じる。

無気力になった連花は、暦を作る官吏・嘉慶のもとで働きはじめた。仕事自体は簡単で、少し変わった人たちのお手伝いをしながら穏やかな日々を過ごしていく。支僑が無邪気な子供みたいなのが面白かった。

しかし、新王派か偽王派かのいざこざに巻き込まれ、偽王派についた摂養は街に火が放たれる。家族が殺された時と同じように、謝っては祈る蓮花の描写が辛い。

数行で語られていた話を拡大してみれば、こんなに悲劇があったのだと思い知らされる。始まりは重苦しいけれど、燕を通して希望の光が差すのが良い。慶国が良い国になってほしいと強く思う。

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