「十二国記 東の海神 西の滄海」小野不由美|過去と現在が交錯して描かれる麒麟の苦悩と妖魔の子の悲哀
前作「十二国記 風の海 迷宮の岸」は日本生まれの麒麟が主人公のお話だった。十二国の世界に帰還した麒麟が王を選ぶために成長していく物語である。
そして、今作でも日本生まれの麒麟が主人公となる。雁国の麒麟・延麒こと六太が拉致されてしまう現代と、王を選ぶことにためらい苦悩する過去が並行して描かれてゆく。
麒麟が主人公なのは前作と同じでも、内容はよりダークに、国の在り方や麒麟という生き物についてさらに踏み込んだ理解ができるような一冊になっている。
「十二国記 東の海神 西の滄海」のあらすじ
国が欲しいか。ならば一国をやる。延王尚隆(えんおうしょうりゅう)と延麒六太(えんきろくた)が誓約を交わし、雁国(えんこく)に新王が即位して二十年。先王の圧政で荒廃した国は平穏を取り戻しつつある。そんな折、尚隆の政策に異を唱える州侯が、六太を拉致し謀反を起こす。望みは国家の平和か玉座の簒奪(さんだつ)か──二人の男の理想は、はたしてどちらが民を安寧(やすらぎ)に導くことになるのか。そして、穢れを忌み嫌う麒麟を巻き込む争乱の行方は。
「十二国記 東の海神 西の滄海」を読んだ感想
王を選ぶことに葛藤を抱える六太、一国の主として民を想う尚隆
麒麟は王を選び、王に仕えるために存在している。雁国の麒麟である六太もまた、王を選ぶ宿命を担っていた。だが、六太は十二国の世界から逃げ出して、生まれ育った日本へ戻る。
「(前略)おれは王を選ぶこと自体が嫌だった。――だから逃げ出したんだ。王を選ばなくていいところに」
引用元:「十二国記 東の海神 西の滄海」145P
逃げ出した六太がたどり着いたのは、王である尚隆がいる土地だった。逃げ出したはずが何かに導かれているように出逢ってしまい、契約を結ぶこともその地を離れることも出来ずに苦悩する六太。
一方の尚隆はのらりくらりと生きているように見えて、熱い信念を持っていることが本作でわかる。尚隆だけでも逃がそうとした老爺に向けた言葉が印象深い。
「俺一人生き延びて小松を再興せよだと?ーー笑わせるな!小松の民を見殺しにして、それで小松を興せとぬかすか。それはいったいどんな国だ。城の中に俺一人で、そこで何をせよと言うのだ!」
引用元:「十二国記 東の海神 西の滄海」239P
六太と尚隆は「十二国記 月の影 影の海」でも登場している。雁国は500年続く豊かな国になるが、その始まりにこれほどの苦悩と痛みがあったのには、しみじみとした気持ちになる。
妖魔に育てられ、斡由に拾われた更夜
親に捨てられ、妖魔に育てられた更夜は、子供時代に六太と出会い言葉を交わす。やがて、過酷な環境を生きる中で斡由と出会い、斡由によって人間としての生活を与えられ、斡由に忠実な臣下となる。
初めて六太と話した時の更夜は、素直で無邪気で人殺しを嫌がる優しい子供だった。しかし、再会して六太を拉致した更夜は、斡由のためなら人殺しも厭わない人間になっていた。
斡由の言動の裏側にあるズルさには薄々気付きながらも、自分を救ってくれた斡由のために生きるのだと目を逸らし続けていた更夜。
後半、斡由のメッキが剥がれてくると、更夜の気持ちにもブレが見えてくる。それでも、自分に言い聞かせるように斡由のことを語る更夜が痛々しい。
更夜の行いは決して許されるものではないが、最後に少しだけ救いがあるのは良かったと思う。
有能で剛胆な斡由の本性と剥がれゆくメッキ
民のため、正義のために立ち上がったはずの斡由。物語が進むにつれてその本性が見えてくる。
隠していた非道な行為が暴かれる。自分の失敗は他人になすりつける。自分では決して口汚いことは言わないけれど、暗に更夜にやらせようとするズル賢さ。
メッキが剥がれていく様子は恐ろしい。だがしかし、こういう風に自分の身を守るためならどんな嘘もつく人っているよなぁと思ったり。自分の失敗を認められないのは可哀そうだな。最期まで「自分は間違っていない」と思い続けていたんだろうな。
ブレない尚隆のかっこよさ、六太と尚隆のやり取りに痺れる
普段は適当な感じなのに、いざとなるとかっこよすぎる尚隆。表には見せないところで実はしっかり考えているところもポイント高い。国や民に対する熱い想いに胸を打たれる。
六太もこの一件を通して、本当の意味で尚隆に「任せる」ことが出来たのかも。
軽口をたたいてふざけあったりとお調子者感の強い2人だけど、深いところで互いを思い合っている感じが素敵だよね。このコンビ大好きだなぁ。