「十二国記 図南の翼」小野不由美|過酷な旅に立ち向かう12歳の少女の真っ直ぐな生き様がかっこいい
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過去作「十二国記 風の万里 黎明の空」に少しだけ登場した恭国の供王・珠晶の物語。

これまで様々な国の様々な立場から描かれてきた十二国記の世界。海客、麒麟の視点、王の視点など、その世界観はどんどん厚みを増していく。

そして今回舞台となるのは、多くを語られずにいまだ謎が多い黄海。実際に昇山をする時の厳しさが描かれてゆく。

「十二国記 図南の翼」のあらすじ

国を統(す)べるのは、あたししかいない! 恭国(きょうこく)は先王が斃(たお)れて27年、王不在のまま治安は乱れ、妖魔まで徘徊(はいかい)していた。首都連檣(れんしょう)に住む少女珠晶(しゅしょう)は豪商の父のもと、なに不自由ない暮らしを与えられ、闊達な娘に育つ。だが、混迷深まる国を憂える珠晶はついに決断する。「大人が行かないのなら、あたしが蓬山(ほうざん)を目指す」と――12歳の少女は、神獣麒麟により王として選ばれるのか。

「十二国記 図南の翼」を読んだ感想

王になるべく蓬山を目指す珠晶の成長が熱い

王の不在により妖魔が徘徊する恭国。大人たちは安全な檻の中で国の現状を嘆くばかり。そんな大人たちに嫌気がさした珠晶は自ら昇山することを決意する。

衣服を手に入れ、騎獣のそばに荷物を隠し、計画的に家出をする様子から、珠晶の聡明さが伺える。

最初の方を読むと少し小生意気な印象だけど、読み進めるほど、しっかり自分の意志を持ち、芯が通った珠晶に惚れる。

年相応の幼さも持ち合わせていて、それゆえに頑丘と喧嘩もしてしまうが、季和と話す中で気づきを得て、自分が間違っていたと反省し、正しくあろうとする珠晶の真っ直ぐさがすごくかっこいい。

黄海のリアルと黄朱の秘密が垣間見れる

蓬山については「十二国記 風の海 迷宮の岸」で麒麟側の視点から描かれていたが、黄海そのものについてはこれまで噂話程度にしか知ることができなかった。

昇山する珠晶の視点から描かれる今作では、体験を伴ったリアルな黄海の様子を知ることができる。まだまだ謎めいてはいるけれど、黄海を訪れる人たちが少しでも旅の負担を減らそうと努力している様子が見えて面白い。

今作では妖魔視点からも描かれている。ただただ不気味な存在だった妖魔の意志が見えることで、人間や動物と同じように感じられて、わからないゆえの恐ろしさは薄らいだ気がする。

黄海を故郷として生きる黄朱。彼らの秘密も少しだけ明かされ、色々な角度から黄海について考えさせられる。

また、助け合うことを否定されて皮肉を言う珠晶に対して、近泊が言った言葉が印象深い。

「助け合う、ってのはお前、最低限のことができる人間同士が集まって、それで初めて意味のあることじゃねえのかい。嬢ちゃんの気持ちは分かるが、できる人間ができない人間をただ助ける一方なのは、助け合うとは言わねえ。荷物を抱えるってんだ」

引用元:「十二国記 図南の翼」184P

大笑いした後になかなか辛辣なことを言う。核心を突いていて好きだし、これは人生の教訓として心に留めておきたい。

黄海の守護者・犬狼真君との出逢い

頑丘は大怪我をし、妖魔がすぐ近くまで近づいている。大ピンチの中で颯爽と現れた犬狼真君。

黄海の守護者として崇められ、天に仕える凄い人物だけど、その正体が更夜だと初めて知った時は驚いたよね。「十二国記 東の海神 西の滄海」を読んだ人は「立派に成長して(´;ω;`)」という気持ちになること間違いなし。

穏やかに話したり笑ったりする姿にホッとする。居場所が出来たのは良かったなと思う。

更夜が言った「怪我人がいる、私がいない。だから妖魔は来ない」は矛盾しているように思えるし、意味がわからずにいたのだけど、腹ぺこクマさんの考察を読んで完全に納得できたから、ネット社会ありがたし。

珠晶と旅を共にする謎の男・利広

人がよさそうな笑みを浮かべた、掴みどころのない謎の男・利広。かっこいいよね。好きなキャラだわ。

最後の最後で正体が明かされるけど、これも初めて知った時は驚いたなぁ。奏国での一家のやり取りが、国の要とは思えない緩さで微笑ましい。奏国が長く続くのも分かる気がするね。

正体を明かした利広と珠晶が改めて会う場面は描かれていないのよね。驚く珠晶が見たかったなぁ。

利広が「黄朱に知り合いができた」と呟いているし、頑丘との付き合いはこれからも続くのかなと思えて嬉しいけど、頑丘はその後どうなったのか、珠晶の提案を受けて官吏になったのか気になるなぁ。官吏になって相変わらず珠晶に振り回されていて欲しいと思う。

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